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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)11764号 判決 1989年9月19日

原告

藤本高志

被告

鬼塚周一

主文

一  被告は、原告に対し、金一一四四万一一一五円及びうち金一〇六四万一一一五円に対する昭和五九年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その三を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一九三〇万八六一二円及び金一七八〇万八六一二円に対する昭和五九年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故が発生した(以下、本件事故という。)。

(一) 日時 昭和五九年八月一一日午前九時五分頃

(二) 場所 富田林若松町一丁目一六番八号先路上

(三) 加害者 大型貨物自動車(大阪一一に六九三号)

右運転者 被告

(四) 態様 被告が加害車を運転して右路上を東進中、前を走行していた車両が一時停止したのに続き、その後方約一・七メートルに停止したところ、原告がその間を通つて北から南へ道路を横断しようとして道路中央まで出たが、反対車線に車両がつかえていて横断できる状態になかつたことから、方向転換して戻りかけたところ、被告が加害者を発進させて原告に自車前部を衝突、転倒させ、なお自車前部でひきずつて、原告を負傷させた。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、加害車を保有し、これを自己の運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷、治療経過、後遺障害

(一) 受傷及び治療経過

原告は、本件事故により、前胸部、腹部、左大腿部等挫滅創等の傷害を負い、近畿大学医学部附属病院において、次のとおりの治療を受けた。

(1) 昭和五九年八月一一日から同年一〇月一〇日まで入院

(2) 昭和六〇年二月六日から同月二七日まで入院

(3) 昭和五九年一〇月一一日から昭和六二年一〇月一二日まで通院(実日数二二日)

(二) 後遺障害

原告は、昭和六〇年四月三日、左下肢の運動障害、左下肢等の有痛性瘢痕醜状、陰茎の一部欠損、右睾丸の欠損の後遺障害を残して症状が固定した。

これを詳述すると、原告は、加害車のタイヤに左大腿部から下腹部を轢過されて同部位の筋肉組織等がえぐられ、筋肉組織及び神経組織の一部が欠損したため、左股関節及び左膝関節に重大な運動障害が発生しており、同部位に生じている神経障害とあいまつて、ほとんど動かせない状態である。そして、左足首も、他の関節ほどではないが、動きが鈍い。

こうしたことから、原告は、<1>起立したり、座つたりするためにはものにつかまらなければならない、<2>走ることはほとんどできず、正常歩行ができない、<3>正座ができない、座位は左足を投げ出してはじめて可能である、<4>階段の昇降は、手すりを使わなければできない、<5>風呂に一人で入れず、靴下の着脱等も一人ではできない、<6>自転車に乗れない等の日常生活上の不便を被つている。

以上のように、原告の左下肢については、左股関節及び左膝関節にそれぞれ著しい機能障害が認められるところ、労働省労働基準局長通達「障害等級認定基準」第2の10(3)ロでは、「c 同一下肢の三大関節に機能障害が存する場合 例1 一下肢の足関節に単なる機能障害が存し、同下肢のひざ関節に著しい機能障害が存している場合は、第九級とする。……なお、一下肢の三大関節のすべての機能に著しい障害を残すものは第八級に、また一下肢の三大関節のすべての関節の機能に障害を残すものは第一〇級に準ずる障害として取り扱うこと。」とされており、これからすれば、原告の場合、右二つの障害は一つの障害として自賠責保険後遺障害別等級表(以下、後遺障害別等級表という。)の第九級に該当するというべきである。

そして、原告には、他にも機能障害があるから、原告の後遺障害は、少なくとも後遺障害別等級表の併合第八級と判断されなければならない。

4  損害

(一) 入院雑費 九万円

一日当たり一〇〇〇円として九〇日分

(二) 入院付添費 三一万五〇〇〇円

原告の入院期間九〇日について原告の父が付添看護したところ、その入院付添費は一日当たり三五〇〇円とするのが相当である。

(三) 通院付添費 三万四〇〇〇円

原告の通院一七日について、原告の父が付添をしたところ、その付添費は一日当たり二〇〇〇円とするのが相当である。

(四) 通院交通費 一万六五〇〇円

(五) 入通院慰謝料 一五〇万円

入院期間三ケ月、通院期間五ケ月の傷害を受けた苦痛を慰謝するため、右金額が相当である。

なお、原告は、本件事故により、一時は生命さえ危ぶまれたほどの傷害を負つたものであり、慰謝料の算定に当たつては、このことを十分に考慮に入れるべきである。

(六) 逸失利益 一四〇四万四二一二円

原告は、昭和四九年五月四日生の男子であるところ、前記のとおり、原告の後遺障害は後遺障害別等級表第八級に該当し、これらの症状は、筋肉組織や神経組織の欠損によつて生じているため、将来的に改善する見込みはない。したがつて、原告は、就労可能な全期間にわたつて、その労働能力を四五パーセント喪失したというべきである。

そこで、一八歳男子の平均給与を月額一三万円とし、ホフマン方式により中間利息を控除して現価を算出すると、次のとおり一四〇四万四二一二円となる。

(算式)

130,000×12×0.45×20.006=14,044,212

(七) 後遺障害に対する慰謝料 六七二万円

原告は、本件事故により、一生身体障害者として生きていくことを余儀なくされた。そして、原告には、広範囲の醜状痕が残存するとともに、睾丸及び陰茎の一部がそれぞれ欠損したため、生殖能力の喪失あるいはその極度の低下も危惧され、その被つた精神的苦痛は甚大である。

これらの事情を考えると、後遺障害に対する慰謝料の額は、右金額を下らないというべきである。

(八) 弁護士費用 一五〇万円

5  損害の填補 四九一万一一〇〇万円

原告は、被告から八八万一一〇〇円の支払いを受けるとともに、自賠責保険から四〇三万円の支払いを受けたので、これを前記損害額から控除すると、残額は一九三〇万八六一二円となる。

6  結論

よつて、原告は被告に対し、右損害賠償金一九三〇万八六一二円及びうち弁護士費用を除いた金一七八〇万八六一二円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五九年八月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(三)の各事実は認める。同(四)の事実中、加害車が原告に衝突し、これを転倒させて負傷させた事実は認めるが、事故の具体的態様は争う。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実中、(一)の事実は知らない。

同(二)の事実中、原告の後遺障害の程度は争う。原告の後遺障害の程度は、後遺障害別等級表第九級に該当するというべきである。なお、原告は、自賠責保険では、左股関節の機能傷害につき第一二級七号、左膝関節の機能傷害につき第一二級七号(以上により第一一級相当)、醜状障害につき第一二級相当、左大腿部の神経症状につき第一二級一二号、一側の睾丸の欠損につき第一一級一一号、以上につき併合第一〇級の認定を受けたものである。

4  請求原因4の事実は争う。

5  請求原因5の事実は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故は、被告の発進時における前方不注視と原告の過失とが競合して発生したものであるから、後記2の治療費を原告の損害額に含めた上、過失相殺をすべきである。

すなわち、本件道路は、西行、東行の二車線がある幹線道路(国道三〇九号線)であるところ、被告の進行していた東行車線は車両が渋滞しており、加害車が、前車に続いて一時停止した後、発進しようとしたときに原告が自転車に乗つて急に飛び出してきたものである。事故現場の西側近くには本町交差点の横断歩道があることを考慮すると、原告の過失割合は三割は下らないと見るべきである。

仮に、原告主張のとおり、原告自転車が、停止していた加害車と前車との間を通つて本件道路を横断しようとしたが果たせず、転回して引き返そうとしたときに衝突したとするならば、道路中央付近から加害車の直前を背丈の低い自転車が予告なしに飛び出してきたということになり、この場合は、前記の事故態様の場合よりも原告の過失は大きく、その過失割合は五割とするのが相当である。

2  損害の填補

原告は、請求原因5記載の金額のほか、訴外安田火災海上保険株式会社から、治療費三七八万七三二九円の支払を受けている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

前記のとおり、原告は、一旦道路中央まで出て戻ろうとしていたときに加害車が突然発進して衝突してきたものである。被告は、停車中は、自車に接近する人車の有無に注意するのはもちろん、発進するに当たつては、自車直前の安全を確認すべき義務があるのに、対向車に気を取られ、停車中に自車前方を見ていないばかりか、前車が動き出すや、自車前方を確認することなく、漫然と発進して本件事故を発生させたものであつて、被告が前方を見てさえいれば本件事故の発生は容易に防げたものである。この点で被告の過失は重大であつて、本件道路は、幅員七メートルの歩車道の区別もなされていない道路で、本件事故現場付近は住宅に接していて路地が多かつたこと、原告は本件事故当時一〇歳の児童であつたことを考慮すると、本件は到底過失相殺が問題となるような事案ではない。

2  抗弁2の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生及び被告の責任について

請求原因1(交通事故の発生)の事実中、(一)ないし(三)の各事実、同(四)の事実中、加害車が原告に衝突し、これを転倒させて負傷させたこと及び請求原因2(責任原因)の事実は当事者間に争いがない。

したがつて、被告は、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

二  本件事故の態様及び過失相殺について

1  右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一、第二、第六、第一一号証、乙第一ないし第一二号証(ただし、乙第五号証については、後記措信しない部分を除く。)、原告法定代理人藤本法正尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、同尋問の結果及び被告本人尋問の結果を総合すれば、

(一)  本件事故現場は、東行、西行それぞれ片側一車線の幅員約七メートルの国道三〇九号線(堺富田林線)路上であるが、その北側で、幅約二ないし二・五メートルの路地(本件道路と接している開口部分は約六メートル)と交差し、南側で、幅約二メートルの二つの路地と交差していること、付近は、歩車道の区別がなく、最高速度は時速三〇キロメートルに制限され、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がされていたこと、

本件事故現場付近は平坦で直線となつており、前方に対する見通しはよかつたが、住宅等が本件道路脇まで迫り、左右の見通しは悪かつたこと、

なお、本件事故現場の西側約五〇メートル先には信号機の設置された横断歩道があつたが、付近の住民はしばしば本件事故現場付近で本件道路を横断していたこと、

(二)  被告は、加害車を運転し、先行の大型貨物自動車(ダンプカー)(前車)に続き時速約二〇キロメートルの速度で本件道路を東進中、本件事故現場付近に差し掛かつたが、その少し先の対向車線(西行車線)上に駐車車両があり、対向車が右側(東行車線)にはみ出して進行してきたため、前車がこれをやり過ごすために停止し、加害車もその後方約一・七メートルのところで停止したこと、その約二、三分後、一二、三台の対向車が通過して対向車が途切れ、前車が発進したため、被告も加害車を発進させて加害車左前部付近を原告に衝突させたが、停止中は対向車に気を奪われて原告が加害車前方に来ていたことに全く気付かず、また、発進するに際してアンダーミラーで加害車直前を見るなどの安全の確認をしなかつたこと、

(三)  加害車は、大型貨物自動車(ダンプカー)で、本件事故当時、残土約一六トンを積載していたこと、加害車の運転席の目の高さは地上約二・四八メートルで、ウインドー越しでは、右高さから斜め前方約二・八メートルの範囲で死角となつているが、加害車にはアンダーミラーが設置されており、これによれば加害車直前は十分に見えること、

(四)  一方、原告(昭和四九年五月四日生、当時一〇歳)は、大人用自転車の一つ手前の大きさ(二四インチ)の自転車に乗り、自宅から本件道路の南側にある母の実家に行く途中、本件道路北側にある路地から本件道路に出たが、東行車線が渋滞して車両が停止していたことから、前車と加害車の間を通つて本件道路を横断しようとして加害車の前方に出たところ、加害車が急に発進したため、これに衝突して転倒し、自転車とともに加害車に巻き込まれたこと、

(五)  原告は、頭を南(道路中央側)に、足を北に向けて仰向けに倒れた状態のまま加害車左前輪に約七メートル引きずられ、前胸部、腹部、左大腿部、鼠径部挫滅創等の傷害を負つたこと、

以上の事実が認められる。

この点について、原告は、加害車が一時停止中、原告が本件道路を横断しようとして中央車線付近まで進んだが、西行車線に車両がつかえていて横断できる状態になかつたことから、方向転換して戻りかけたところ、加害車が発進して原告に自車前部を衝突させたものと主張し、前掲乙第五号証(原告の司法警察員に対する供述調書)中に、原告は、「道路を北から南に横断しようとして道路中央付近に自転車の乗つたまま行き、停止すると、左から車が来かけたので、少しの間待つていたところ、左からの車はつかえて僕の前はその車で行けなくなつた。それで、折り返そうと思つて右にハンドルを切つて左足を地面につけて半円を書くようにして方向転回をしかけたとき、加害車が発進してきた」、「相手ダンプが発進してきたのを知つたのは、方向転回している途中で、丁度自転車が西を向いたときにぶつかつた」旨の原告主張事実に副う供述記載部分がある。しかしながら、前認定のとおり、原告は加害車左前輪に巻き込まれて引きずられている上、前掲乙第三号証(実況見分調書)によれば、加害車のバンパー左前部及びライトグリルに原告との接触痕と見られる布目痕が残つているが、加害車の前部バンパー等には自転車と接触したことを窺わせるに足りる痕跡は認められず、また、自転車は前輪を加害車左前輪で轢過された後、加害車の下部で引きずられたと認められ、原告の右供述は、これらの事実と符合しないといわなければならない。そして、前認定のとおり、加害車は前車の約一・七メートル後方に停止したと認められるところ、このくらいの車間距離で原告が前記の大きさの自転車に乗つて方向転換することは困難であると考えられる上、もし、原告の供述どおりであるとすれば、自転車に乗つた原告は、道路中央付近にしばらくいた上、加害車が発進する直前、道路中央付近で転回して加害車の正面を向いていたことになり、前記運転席からの死角や、被告が対向車に気を奪われ、発進の際にも加害車の直前を全く見ていなかつたことを考慮に入れても、被告が原告及び自転車の存在に全く気付かなかつたとすることに不自然の感は否めず、その他、原告の右供述が本件事故から相当期間経過後のものであること等を併せ考えると、原告の前掲供述記載部分は直ちに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、前掲乙第三号証によれば、自転車が右側を下にして倒れたまま引きずられていることが認められるが、以上の諸事実に鑑みると、右のことをもつて未だ前記認定の事実を覆すには足りないというべきである。)。

2  以上によれば、本件事故は、被告が、一時停止中、対向車に気を奪われて加害車前方に来ていた原告に全く気付かず、また、発進するに際し、前方、左右の安全を十分に確認しなかつた過失に帰因しているといえるが、一方、原告には、停止中の加害車の直前を進行して道路を横断しようとした過失があり、右事実に、加害車は大型車であること、原告の年齢、本件事故現場付近の状況その他の事情を考慮すると、原告と被告の過失割合は、原告三割、被告七割とするのが相当である。

そこで、後記損害額の算定につき、三割の過失相殺をすることとする。

三  原告の受傷の内容、後遺障害等について

1  原告の受傷内容、治療経過等

前掲甲第二、第一一号証、いずれも成立に争いのない甲第三、第四号証、第九号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、前掲原告法定代理人尋問の結果によれば、

(一)  原告は、本件事故により、前胸部、腹部、左大腿部、鼠径部挫滅創等の瀕死の重傷を負い、直ちに近畿大学附属病院救命救急センターに入院して緊急手術を受け、その後、同病院形成外科に転科して同年一〇月一〇日まで入院治療を受けたこと(入院日数六一日)、

(二)  同月一一日以降は、同科に通院して治療を受けていたが、睾丸が一つ欠損していることが判明し、体内に残留している疑いもあつたため、同病院泌尿器科に昭和六〇年二月六日から同月二七日までの二二日間入院して開腹検査等を受けたが、最終的に、本件事故による陰嚢破裂の際に右睾丸が失われたものと診断されたこと、

(三)  その後も、同病院に通院して経過観察を受けていたが、昭和六二年七月一一日、同病院形成外科において、昭和六二年四月二七日に症状が固定したと診断されたこと(それまでの通院実日数一七日間)、

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  後遺障害の内容及び程度

(一)  前掲甲第二ないし第四号証、第七、第八、第一〇、第一一号証、いずれも原告本人を撮影した写真であることに争いのない検甲第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし六、成立に争いのない乙第一三号証、前掲原告法定代理人尋問の結果及び鑑定の結果を総合すれば、原告の後遺障害の内容、程度は次のとおりと認められる(なお、原告は、自賠責保険の被害者請求のため、主として左下肢の後遺障害について、昭和六〇年四月三日に富田林病院整形外科医師の、また、昭和六一年六月一三日に阪南中央病院医師の診察を受け、それぞれその頃に症状が固定している旨の診断を受けていることも認められるが、前記治療の経過等から、その症状固定時期は、近畿大学附属病院医師の判断した昭和六二年四月二七日をもつて相当と認める。)。

(1) 左下肢の障害

ア 左股関節の機能障害

屈曲不能、伸展障害、内転障害、内旋・外旋障害があり、生理的運動領域(健側)と比較して二分の一以下の運動制限がある。

イ 左膝関節の機能障害

屈曲障害、伸展障害があり、生理的運動領域と比較して二分の一以下の運動制限がある。

なお、左足関節にも若干の機能障害が見られるが、後遺障害別等級表に該当するほどの障害ではない。

ウ 左下肢の神経障害

左股部のほかの下肢に頑固な神経症状を残している。原告は、以上の障害により、請求原因3(二)記載のような日常の起居動作に不自由を受けているが、これらの障害は、筋肉の挫滅欠損、瘢痕拘縮、神経の損傷等によるものであり、将来にわたつて症状が軽快ないし回復する可能性は少ないと考えられる(なお、瘢痕拘縮は、原告の成長に伴い、増強することも予想される。)。

(2) 腹部等の醜状、瘢痕

原告の腹部、鼠径部、大腿部(特に左大腿部)、臀部、背部に広範囲にわたつて醜状痕、植皮片採取部の瘢痕が残されている。これらは、主として皮膚、筋肉の挫滅欠損、瘢痕拘縮によるもので、将来改善される見込はないと考えられる。

(3) 右睾丸欠損、陰茎の一部欠損

今後なお経過観察を必要とするが、原告は、右障害により、生殖機能、陰茎部について、正常人に劣ると診断されている。

(二)  ところで、前掲乙第一三号証によれば、右後遺障害につき、自賠責保険の関係では、左股関節及び左膝関節の機能障害はそれぞれ後遺障害別等級表第一二級七号(両者で併合第一一級)に、左下肢の神経症状は第一二級一二号に、腹部等の醜状、瘢痕は第一二級相当に、右睾丸の欠損は第一一級一一号にそれぞれ該当するとされ、以上により、併合第一〇級と認定されたことが認められる。

しかしながら、鑑定人は、原告の左下肢の後遺障害は、(1)左股関節の機能障害は第一〇級一一号に、(2)左膝関節の機能障害は第一〇級一一号に、(3)左下肢の神経障害は第一二級一二号にそれぞれ該当するとした上(腹部等の醜状、瘢痕、右睾丸の欠損については、自賠責保険の認定と同じ結論。)、後遺障害別等級表の(注)7(a)で「第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるときは、重い方の身体障害一級を繰上げる。」とされていることに従えば、原告の後遺障害は第九級に相当することになるとしている。なお、鑑定人は、右のような取扱いに従えばこのような結論になるが、原告には第一三級以上の身体障害が五もあり、身体障害が二と同じ扱いというのは矛盾しているように感じられ、この点の配慮が必要ではないかと述べている。

四  損害について

そこで、原告の被つた損害について判断する。

1  入院雑費 八万三〇〇〇円

前認定のとおり、原告は、合計八三日間入院して治療を受けたことが認められるところ、原告の症状等に照らし、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円程度の支出をしたものと推認されるから、入院全期間で合計八万三〇〇〇円を相当損害と認める。

2  入院付添費 二九万〇五〇〇円

前認定の原告の年齢、傷害の程度等に照らし、付添看護が必要であつたと判断されるので、その入院期間八三日について一日当たり三五〇〇円として合計二九万〇五〇〇円を相当損害と認める。

3  通院付添費 三万四〇〇〇円

前掲甲第一〇、第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の近畿大学附属病院への通院一七日について、原告の父が付添をしたと認められるところ、その付添費は一日当たり二〇〇〇円として合計三万四〇〇〇円を相当損害と認める。

4  通院交通費 〇円

前認定のとおり、原告が近畿大学附属病院に通院したことが認められるが、そのために原告主張の交通費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

5  逸失利益 一五四三万三〇九一円

前認定のとおり、原告は昭和四九年五月四日生の男子であり、前掲原告法定代理人尋問の結果によれば、本件事故まで既存の障害もなく、健康であつたことが認められる。そして、前認定の後遺障害の内容、程度、特に原告の左下肢については、三大関節中の二関節の機能に著しい障害がある上、頑固な神経症状もあること、労働省労働基準局長通達「障害等級認定基準」第2の10(3)ロでは、「c 同一下肢の三大関節に機能障害が存する場合 例1 一下肢の足関節に単なる機能障害が存し、同下肢のひざ関節に著しい機能障害が存している場合は、第九級とする。……なお、一下肢の三大関節のすべての機能に著しい障害を残すものは第八級に、また一下肢の三大関節のすべての関節の機能に障害を残すものは第一〇級に準ずる障害として取り扱うこと。」とされていること、原告の左下肢の機能障害あるいは神経症状が将来改善する可能性は少ないこと、しかしながら、他方、原告のような児童の場合、これに適応する教育、訓練をある程度行うことができ、また、職業選択の可能性も比較的大きいと認められること等を総合考慮すると、原告は、前記後遺障害により、満一八歳から満六七歳まで四〇パーセントの割合で労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

そこで、原告は、右就労可能期間、昭和六二年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者学歴計一八~一九歳の平均月間給与額一四万九二〇〇円、年間賞与その他特別支給額一三万八一〇〇円の収入を得ることができたものと推認されるから、右金額を基礎に右労働能力喪失割合を乗じ、新ホフマン式計算法により原告の逸失利益の現価を求めると、次のとおり一五四三万三〇九一円(一円未満切捨て)となる。

(算式)

(149,200×12+138,100)×0.40×20.0066=15,433,091

6  慰謝料 八〇〇万円

前認定の原告の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺障害の部位・程度、本件事故の態様その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、本件事故によつて原告が被つた精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、入通院中のそれとして一五〇万円、後遺障害のそれとして六五〇万円の合計八〇〇万円をもつて相当であると認める。

(以上1ないし6の合計 二三八四万〇五九一円)

7  過失相殺

前認定のとおり、原告には本件事故の発生につき三割の過失があると認められるので、原告の前記損害額に原告の治療費三七八万七三二九円(原告の治療のためこの費用を要したことは当事者間に争いがない。)を加えた合計二七六二万七九二〇円から三割を控除すると、その残額は一九三三万九五四四円となる。

8  損害の填補

原告が本件事故による損害に対する填補として、被告から八八万一一〇〇円の、自賠責保険から四〇三万円の、そして訴外安田火災海上保険株式会社から右治療費三七八万七三二九円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、右損害残額からこれを控除すると、弁護士費用を除く原告の損害額は一〇六四万一一一五円となる。

9  弁護士費用 八〇万円

原告が被告から任意の弁済を受けられないため、原告訴訟代理人に本訴の提起と進行を委任し、相当の報酬等を支払うことを約したことは、本件記録と弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件訴訟の難易、認容額、本件訴訟の経過等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては八〇万円をもつて相当と認める。

五  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し本件損害賠償として一一四四万一一一五円及びうち金一〇六四万一一一五円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五九年八月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠)

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